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青少年の薬物汚染の実態 ―若者の薬物汚染予防のために―

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・はじめに

現在、青少年の薬物汚染の問題は、大きな社会問題となり、私たち教育の現場においても避けて通ることのできない問題となっています。いくつかの中学生や高校生に対するアンケート調査の結果を見ても、多くの青少年が薬物の魔の手が身近に迫ってきていることをはっきりと認識しています。たとえば、1998年に桜美林大学の小宮山 要先生が、東京都内で中高生を対象として行った調査では、実に30%におよぶ高校生、10%におよぶ中学生が、友人に薬物を乱用しているものがいると解答しております。また、神奈川県藤沢市が1998年に実施した調査でも、高校生の10.2%、中学生の2.6%、小学校56年生の0.9%が、友人に薬物を乱用するものがいると答えています。

しかし、その一方で、社会のこの問題に対する意識は希薄であり、多くの人たちが、一部の地域の一部の若者たちの問題としてしか捉えていません。教育現場についても、同様のことが言えます。本来、生徒たち一人一人に、薬物を自ら拒む力を育てるべきであるにもかかわらず、ただ、声を大にして「薬物は怖い、絶対に近づいてはならない。人間を止めることになるぞ。」と叫んでいるだけではないでしょうか。

今や、若者たちはテレビや雑誌、本などの様々なメディアから、薬物に関する多くのいい加減な情報を手に入れています。しかも、それらの情報のほとんどは、興味や関心を煽り、薬物を試してみたくさせるような内容です。そして、若者たちの周りには、様々なドラッグが、その魔の手を広げています。

私は、現在まで約17年にわたり、薬物を乱用した5000人以上の若者たちと関わってきました。しかし、そのうち41名の若者を事故や自殺で失い、約3割の若者を精神病院や刑務所の檻の中に失いました。今でも私とともに薬物を止め続けている若者は、3割に過ぎません。残りの若者は、現在もどこかで薬物の乱用を続けています。こんな私に、薬物汚染予防を語る資格などないのかもしれませんが、しかし、現在の日本では、こんな私すら数少ない青少年の薬物汚染の現状を知る一人です。

以下のレポートは、私が、この17年間で学んだことの抄訳です。これが、青少年と直接関わっている多くの人の目に触れ、その活動の手助けとなってくれることを、心から願います。

    日本における主な薬物乱用の歴史

日本の薬物乱用の歴史は、第二次世界大戦後に始まります。たしかに、それ以前にも、江戸時代から阿片の密輸や乱用は、歴史に跡をとどめてはいますが、ごくごく少数のまれな事例でした。

戦後の薬物乱用の歴史は、薬物全体について見るならば、現在までに5回の汚染期をむかえています。覚せい剤についてのみ見ても、3回の乱用期がありました。そして、戦後最初の汚染期を除いて、すべての時期の薬物乱用には暴力団が関わっています。

下記の表を見てわかる通り、現在は、日本の薬物乱用の歴史の中でも、最も多くの種類の薬物が量的にも非常に多く出回り、価格的にも比較的安価で供給されている時代です。また、かつての乱用期には、薬物の需要と供給の問題から都市部を中心として乱用が進みましたが、現在は、日本のほとんどの地域に広がっています。また、私の扱った1000以上のケースや専門病院の症例を見ても、乱用者はかつて、一定の生活環境の特異性がありましたが、現在は、あらゆる生活環境の人間へとしかも若年層へと広がってきています。

1 日本の薬物乱用の歴史

年 代

主な乱用薬物

主な乱用者

1945年以前

麻薬(アヘン・モルヒネ)

少数の特定乱用者

1945 〜 1956

第一次薬物汚染期(第一次覚せい剤乱用期)

覚せい剤(ヒロポン)

青少年

1960 〜 1964

第二次薬物汚染期

麻薬(ヘロイン)

青壮年

1960 〜 1964

睡眠薬(ハイミナールなど)

青少年

1963 〜 1967

鎮痛剤(ナロンなど)

抗不安剤

筋弛緩剤

青少年

1967 〜 現在

第三次薬物汚染期

有機溶剤(シンナー・トルエン・ボンド)

青少年(低年齢化)

1970 〜 現在

第四次薬物汚染期(第二次覚せい剤乱用期)

覚せい剤(シャブ)

青壮年(主婦層に広がる)

1975 〜 現在

幻覚剤(大麻・LSDなど)

青壮年

1992 〜 現在

ガス

青少年(低年齢化)

1994 〜 現在

第五次薬物汚染期(第三次覚せい剤乱用期)

覚せい剤(スピード・S・アイス・やせ薬など)

大麻(マリファナ・ガンジャ・チョコなど)

MDMA・ヤーバーなど

マジックマッシュルームなど

脱法ドラッグ

青少年(中高生)

3.「第五次薬物汚染期(第三次覚せい剤乱用期)」の実態

今回の「第五次薬物汚染期(第三次覚せい剤乱用期)」は、私の体験から見て、現在までを四つの段階に分けることができます。

第一段階は、1994年の秋にはじまりました。この年は、ポケットベルや携帯電話が急速に高校生をはじめとする若者たちの間に広まっていった時期です。当時、ポケットベルにメッセージを入れたり、携帯電話に連絡をすることは、多額の電話料がかかりました。そのため、偽造テレホンカードが、若者たちの間で使用されるようになりました。

この偽造テレホンカードは、繁華街や駅周辺で、アジア系の不法滞在外国人によって、三枚千円程度で密売されていました。彼らのもとに、暴力団から覚せい剤や大麻が流れ、若者たちを対象として密売されました。私は、この時期まで、一部の劣悪な環境の特殊な若者を除いて、日本の若者が、覚せい剤に汚染されることはないだろうと考えていました。それは、日本で密売される覚せい剤のほとんどすべてに暴力団が関わっており、若者の暴力団に対する恐怖心が、抑止力となると考えていたからです。ところが、不法滞在の外国人が、暴力団と若者の間のパイプ役をつとめてしまいました。そして、彼らは、二つの悪さをしてくれました。一つは、「あぶり」という新しい覚せい剤の使用法を広めたことです。これまで、覚せい剤は「ポンプ」と呼ばれる注射で血管に入れて乱用することが主流でした。ところが、彼らは、アルミホイルやガラスの器に覚せい剤を入れライターであぶり、その気化した蒸気を吸引するという、新しい乱用法を若者たちに広めていったのです。このため、注射には抵抗のある若者たちも乱用へとどんどん引き込まれていきました。二つ目は、覚せい剤に、「スピード」・「エス」・「アイス」・「やせ薬」などの新しい名前をつけたことです。覚せい剤という名称に暗い恐怖感を感じる若者たちも、「スピード」や「エス」という名前にひかれ、ファッション感覚で覚せい剤を乱用しはじめました。

第二段階は、関東周辺の都市部では、1996年頃からはじまりました。薬物、特に覚せい剤を覚えその魔力にとりつかれた若者たちは、それを定期的に乱用するためには、多額のお金を必要としました。

女子の場合は、先輩の健康保険証を借り、年齢を偽って、ファッションヘルスなどの風俗の仕事をして金を稼いだり、「援助交際」などというとんでもない名前の付いた売春で金を手に入れました。実際にこの時期に、神奈川県や静岡県、東京都や埼玉県などの多くの都道府県で、このケースで多くの女子高校生が警察によって摘発されています。

ところが、このような手段で安易に多額の金を手に入れることのできない男子の場合は、自らが「売人」となっていきました。そして、自らが通う学校内や、自らが小中学校時代を過ごし居住している地域へと戻り、仲間や後輩の中学生に薬物を密売していきました。

こうして、薬物特に覚せい剤が、地域社会や学校内へと広がっていきました。若者の場合、薬物乱用は、非常に伝染力の強い伝染病です。若者たちは、多くの場合集団を作り、集団で行動します。そこに、薬物が流入した場合、大人たちの場合とは異なり、あっという間にその集団の中で乱用が伝染していきます。これが、今回の汚染期の怖さでもあります。

第三段階は、1997年の末頃からはじまりました。地域社会の中で「売人」と化した高校生などの若者から薬物乱用を教えられた中学生(女子中学生の場合が多い)の一部が、薬物乱用の常習者となりはじめました。彼らは、どのようにして、薬物を手に入れるための金を手に入れているのでしょう。女子中学生の場合は、テレホンクラブや伝言ダイアルを通した売春、男子中学生の場合は、窃盗や強盗などの犯罪を犯しています。これは、今後さらに増加していくと、私は、確信しています。

関東地方や中部地方の主要都市部では、もうすでに第四段階に入っています。すなわち、各地域に若者の「売人」が存在し、この「売人」が、暴力団との薬物のパイプ役を果たすことで、地域の若者たちの間に、シンナーや覚せい剤が広まっていっています。このケースの「売人」のほとんどは、今回の汚染期の前半に薬物を覚えた若者たちで、自らが乱用する薬物を手に入れるために「売人」になっています。このケースでは、「売人」が、地域社会の中に沈みこんでいるため、「町売り」などのケースと異なり、非常に気付きにくく摘発しにくいです。そのため、まだまだ具体的数値には表れていませんが、2000年にかけて大きな問題となってくるでしょう。

4.「第五次薬物汚染期(第三次覚せい剤乱用期)」の問題点

今回の汚染期の問題点は、中学生・高校生を中心とする若者たちの、覚せい剤をはじめとする様々な薬物の乱用です。

若年期の若者の薬物乱用は、その身体や精神の成長を止め破壊していくことから、成人の場合より、短期間に重い症状が現れることが多く、また乱用者の人生に一生消えない大きな傷を残します。

薬物は、どのようなものでも二つの顔を持っています。一つ目の顔は、微笑みかける天使の顔です。薬物は、種類によって程度や効果は違いますが、人間に確実に快感をもたらします。他者や家族・社会は、私たちを裏切り苦痛を与えることがありますが、薬物は、その初期の乱用の段階では絶対に裏切りません。ある種の薬物は陶酔感を、またある種の薬物は多幸感や興奮をもたらします。そのため、一度でも乱用してしまうと、その誘惑を断ち切ることは困難です。特に、日頃つらい状況にいる人間ほど、あっという間にその魔の手に捕まっていきます。

薬物の二つ目の顔は、不気味に笑う死に神の顔です。薬物の乱用は、人間を確実に破滅へと導きます。社会からはじき出し、友人や愛する家族を奪うだけでなく、それを乱用する人間の人間性を破壊し、三つの死、すなわち心の死、頭の死、身体の死をもたらします。

私たち大人の場合は、多くの場合、自らの生活や家族を守ることを一つの物差しとして、この二つの顔を秤にかけ、守るべき家族や社会的地位、将来を考え、薬物の魔の手から自らを守っています。しかし、若さから自らを見失い、現代の繁栄の陰で、様々な寂しさから刹那的に生きる今の若者たちにとって大切なものは、今この瞬間の快楽です。家庭や学校で様々に抑圧されている彼らにとって、守るべきものはあまりにも少ないのです。彼らは、薬物の一つ目の顔にのみ目を向け、安易に薬物の乱用へと走っていきます。そして、哀しいことに精神的に純粋でそのため傷だらけとなっている若者ほど、薬物に依存し自らを滅ぼしていきます。

今回の汚染期の最大の問題点は、若者の間では、「薬物乱用は伝染病である」ということです。集団で行動する彼らの一人が、薬物に汚染されるとあっという間にその集団に汚染が広がっていきます。こうして、1995年頃から若者たちの薬物乱用が広まってきました。

また、この問題に関わるすべての人間が忘れてはならないことは、「薬物依存は、薬物依存症という病気である」ということです。現在まで、摘発あるいは補導された薬物乱用の若者たちは、学校や家庭、警察や司法機関で指導をうけました。しかし、この依存症という病気を治すための治療は、ほとんどの場合受けていません。私も多くの失敗をしてきましたが、薬物依存症は、愛の力や罰で治すことはほとんどの場合できません。

ところが、薬物依存症を治療する医療機関や更生施設は、アルコールに関してのものを除いて、日本にはほとんどありません。医療機関で言うならば、薬物の解毒・断薬の動機付け・家族への指導・更生プログラムをきちんと持っている機関は、私が知っている限りでは、全国に4カ所しかありません。しかも、それらの機関ですら、その内容は、まだまだ不十分です。たとえば、中学生の薬物依存症者に入院まで含めて対応できる医療機関は、一つもありません。また、更生施設については、もっと悲惨です。公的なものは日本には存在しません。民間では、NA(ナルコティク・アノニマス)MAC(マック)DARC(ダルク)が、精力的に活動していますが、どこも資金的に厳しく、特にDARCに対しては、社会的認知さえままならない状況です。

また、この問題に専門的に関わることのできる専門家も、日本には、ほとんど存在しません。一日も早く、医療や更生保護、司法、福祉、教育などの様々な場に専門家を養成し配置していくことが求められています。

5. 薬物の種類

2 薬物の種類

抑制系(ダウナー)

アルコール・ヘロイン・睡眠薬・精神安定剤・シンナー・マリファナ・ガス・市販薬など

興奮系(アッパー)

覚せい剤・MDMA・コカイン・咳止めシロップ・タバコ・市販薬など

幻覚系(サイケデリック)

LSD・マリファナ・シンナー・マジックマッシュルームなど

薬物は、その身体への作用から大きく上記の三つに区分することができます。

一つは、抑制作用を持つものであり、若者たちからダウナーと呼ばれています。この種の薬物は、乱用によって感覚・思考・行動機能が鈍化します。しかし、この種類のものでも、多量に乱用したり長期にわたって乱用を続けることにより、興奮作用を引き起こしたり、感覚の鋭敏化や幻覚をもたらします。

二つ目は、興奮作用を持つもので、若者たちからはアッパーと呼ばれています。覚せい剤が特に有名であり、乱用によって高揚感や万能感を導きます。

三つ目は、幻覚作用を持つもので、若者たちからはサイケデリックと呼ばれています。これらを乱用すると、感覚が鋭敏化し、様々な幻覚を生み出します。また、興奮作用や抑制作用を持つ薬物においても、継続的な乱用によって幻覚を見るようになることもわかっています。

 この説明でもわかるように、上記の区分は、あくまでも乱用初期の作用から分類したものです。いずれの薬物も、長期のあるいは継続的な乱用によっては、様々な複合的な作用を引き起こします。しかし、いずれのドラッグにも共通するのは、私たちの大脳中枢に直接作用して、私たちの意志とは無関係に様々な状態を作り出すということです。それは、多幸感や陶酔感であったり、万能感や幻覚であったりしますが、いずれにしても強烈な快感を伴う快体験であり、乱用した人の心の不安感や痛みを忘れさせてくれます。

 ただし、それは最初だけで、後には死へのまっすぐな道があるだけです。

 また、ほとんどのドラッグは、耐性というやっかいな性質を持っています。それは、乱用者が、そのドラッグに慣れてしまうということです。つまり、乱用を繰り返していくと、それまでのように快体験を得るためには、さらに多くのドラッグをさらに頻繁に乱用するしかなくなるのです。それとともに、ドラッグが切れた状態では、不安や不快感でたまらなくなります。

 こうして、ドラッグの乱用者は、ドラッグなしでは生きることが出来なくなります。これが、依存症の状態です。あらゆるドラッグは、乱用すればこの依存症に陥ります。こうして、乱用者は、乱用を繰り返し、確実に廃人となるか、肉体的な死を迎えることとなります。

6. 主な薬物の薬理作用

 薬物は、その乱用が、法律によって禁止または制限されている薬でかつ依存性を持つ

薬と定義されます。特にこの依存性が、薬物の最も大きい問題点であり、人間を破滅へと導いていく原因です。

 薬物の薬理作用を見ていく場合、この依存性を一つ一つの薬物についてきちんと見ていくことが重要です。まず、依存ということばをきちんと理解してください。依存というのは、あるものがなくてはならない、ないと不快になる状況を指します。

 この依存には、二通りあります。

 一つは、精神的依存です。これは、心の依存と考えるといいと思います。一度、薬物を乱用してしまうと、その時の快感や充足感が、脳の記憶中枢に刷り込まれてしまいます。そして、その快感や充足感を再度求める欲望が生じます。これが、精神的依存です。

 もう一つは、身体的依存です。これは、身体の依存と考えるといいと思います。一部の薬物は、乱用を続けていくと、からだの中にこの薬物の成分が入っていないと、さまざまな禁断症状を引き起こします。それは、いらいらであったり、手足の震えであったり、七転八倒の苦しみであったりします。この、禁断症状は、再度その薬物を乱用すれば収まります。

3 抑制系薬物の薬理作用

抑制系薬物

中枢作用

精神依存

身体依存

薬理作用

大量乱用時

禁断症状

乱用法

アヘン

モルヒネ

コデイン

ヘロイン

抑制

麻酔

強い

強い

多幸感

居眠り

呼吸抑制

縮瞳

嘔吐

呼吸困難

体温低下

昏睡

死亡

食欲不振

過敏症

けいれん

吐き気

経口

喫煙

注射

睡眠薬

バルビタール

メタカロン

ハルシオン

ブロバリン

抑制

催眠

強い

強い

言葉のもつれ

混迷

溺睡

呼吸低下

体温低下

散瞳

弱い頻脈

昏睡

死亡

不安

振せん

精神錯乱

けいれん

死亡

経口

有機溶剤・ガス

シンナー

トルエン

ボンド

(ガス)

抑制

幻覚

中度

なし

多幸感

陶酔

ラリる

しびれ感

無気力

不安

幻覚・健忘

吐き気

食欲不振

体重減少

脳波異常

死亡

なし

吸引

アルコール

抑制

中度

中度

言葉のもつれ

混迷

泥酔

散瞳

頻脈

昏睡

嘔吐

死亡

不安

不眠

振せん

精神錯乱

死亡

経口

4 興奮系薬物の薬理作用

興奮系薬物

中枢作用

精神依存

身体依存

薬理作用

大量乱用時

禁断症状

乱用法

興奮剤

覚せい剤

コカイン

MDMA

興奮

幻覚

強い

なし

機敏性大

興奮

多幸感

散瞳・心拍増

血圧上昇

食欲減退

不眠

激論

体温上昇

幻覚

けいれん

死亡

なし

経口

喫煙

注射

ニコチン

タバコ

興奮

中度

中度

血圧上昇

爽快感

興奮

心拍数増

食欲減退

肺の痛み

のどの痛み

味覚低下

嗅覚低下

脳機能低下

イライラ

集中力

  低下

喫煙

5 幻覚系薬物の薬理作用

幻覚系薬物

中枢作用

精神依存

身体依存

薬理作用

大量乱用時

禁断症状

乱用法

LSD

メスカリン

PCP

幻覚

興奮

中度

なし

幻覚

幻視

時空感覚喪失

幻覚の継続

精神異常

死亡

無気力

長期睡眠

過敏症

死亡

経口

喫煙

マリファナ

ガンジャ

ハッシッシ

マジックマッシュルーム

幻覚

抑制

中度

なし

多幸感

リラックス

食欲増

疲労

誇大妄想

精神異常

不眠症

活発

食欲不振

喫煙

7.    薬物乱用者の生態的類型

6 薬物乱用者の生態的類型

生態的類型

乱用動機

乱用形態

依存形態

問題性

治療

1. 単純遊び型

好奇心

集団吸入

機械的吸入

脱線的

家庭・学校内での処遇改善

2. 非行型

非行集団の仲間意識

集団吸入

単独吸入

機械的吸入

脅迫的吸入

反社会的

少年保護専門職による治療

3. 依存型

精神依存

単独吸入

強迫的吸入

脱社会的

医療機関等での治療

自助グループへの参加

それでは、この薬物問題に対する乏しい社会資源の中で、現場で特に学校や保健所等で薬物を乱用する生徒や若者と出会った場合はどうしたらいいのでしょう。また、不幸にも依存症となってしまっている生徒や若者に対して、その回復のために何をすればいいのでしょう。

 私は、私のもとに若者や親が相談にきた場合、その乱用者が上記の図のどの生態的類型であるかを、本人や親の話から見極めます。そして、そのケースによって対応していきます。

上記の三つの類型の中で、現在非常に増加し大きな社会問題となっているのは、1の単純遊び型です。このケースの場合、乱用する薬物が、依存性の比較的に少ないシンナーやマリファナなどの場合は、短期間に薬物依存までにいたるケースは少ないのですが、依存性の高い薬物の場合は、最初はファッション感覚で遊びのつもりでも、数回の乱用でいつのまにか依存症となってしまいます。Sやスピードなどと呼ばれている覚せい剤の場合がこれです。 

このケースでは、乱用のどの段階で専門家が関わるかが非常に重要です。私の経験からいって、乱用者が集団使用のみを行っているケースでは、遊びや仲間との集団意識から乱用している場合が多く、集団からの離脱、家庭や学校での処遇改善や薬物の危険性についてのきちんとした知識を身につけさせることで、比較的にたやすく薬物乱用から抜け出すことができます。これは、乱用者本人に、反省や悔悟の気持ちがあり家族の適切な対応が得られる場合ならば、教師や保健所の担当者がその回復に直接関わり回復させることも可能です。私は、そのようなケースでは、乱用者と日々の生活についての約束を作り、それをきちんと実行させていくという生活指導を行います。

また、それと同時に、乱用者の家族を、各都道府県の精神保健福祉センターや一部の保健所、一部のダルクで行っている家族教室や家族会に参加させます。当然のことながら、乱用者と最も多くの時間を共用しその回復に最も関わることになるのは家族です。家族自身が、薬物の真の姿を知り、そして乱用者へのあるべき対応を学ぶことは大きな力となります。

本人に、回復へのまた遊び中心の生活から通常の学生としての生活へ戻ることへの意欲がない場合は、対応が難しくなります。このようなケースでは、本人を薬物治療の専門病院へ通院させ、薬物の乱用によって自らの脳や内蔵機能にどの程度のダメージが生じているか、このまま乱用を続ければどうなるのかをきちんと医師から指導を受け、本人の自覚と薬物からの離脱への意志を作ろうとします。

この場合も、上記のケースと同様に、家族にも動いてもらいます。

しかし、単独使用にまで入っているケースでは、3の依存型になっている場合がほとんどで、その回復には多くの時間と努力を要します。

これは、2の非行型についても同様のことがいえます。集団使用のレベルならば、医療機関等で適切な治療を受け、断薬の動機付けを受けることにより、比較的に早く回復できる可能性があります。ただし、このケース、特に暴走族などの非行集団に属しているケースでは、その集団から離脱させなければならないという別な困難もあります。私は、このようなケースの場合は、本人の生活する地域から離れたダルクへ13ヶ月程度入所させ薬物乱用や暴走行為などからやっとの思いで抜け出しつつある若者たちとの共同生活の中で、自分をもう一度見つめ直しさせます。

このケースでは、暴走族等の問題集団との関わりが、乱用原因の背景としてあるため、家族には、各都道府県警が設置している青少年相談室等への相談を勧めます。

これに対して、薬物の単独使用にまで至っている場合は、3の依存型に分類できます。また、これは、2つに分けることができます。一つは、生育過程で受けた家庭や学校等での精神的な傷から薬物に逃げ込んでいる場合です。私は、「薬物の力を借りて生きてきた子」と呼んでいます。このようなケースでは、肉体的なケアとともに、依存にいたった精神的ケアや心理的ケア、環境を変えることなども欠かすことができず、摂食障害や依存のすげ替え、自傷行為、自殺などに至ってしまう場合も多く、回復に長い時間と大きな困難が必要です。また、このケースでは、学校や保健所等の相談機関は完全に無力であり、医療の領域での長期の入院を伴う対応となります。

二つ目は、12のケースから、薬物の一定期間の乱用をへて薬物への依存が形成された場合です。このケースで最もしてはいけない対応は、親や教師、担当者等が抱え込み、愛の力で救おうとすることです。薬物依存は、依存症という病です。病は、愛の力で回復させることはできません。むしろ「底付き」すなわちもうこれ以上薬物を使い続けることはできないという自覚の形成を妨げ、それどころか、まだ自分には自分を見捨てていない人がいると安心して薬物乱用を続けさせてしまう「イネイブラー」(薬物乱用を助ける人)となってしまう可能性があります。速やかに専門医療機関に相談し、医療機関の治療と自助グループ特にダルクへの入所、通所を通して、薬物なしの日を一日一日と積み重ねさせ、薬物から離脱させていくことが大切です。

どのような薬物でも、私の経験からいって、その乱用は、乱用者の精神成長を止めます。そして、明日への意欲や希望を奪っていきます。そして、乱用者の回復には、乱用した期間の数倍の時間を必要とします。この意味からいっても、私たちに今求められているのは、若者たちへの小学校期からの薬物予防教育の徹底によって、これ以上の乱用者を増やさないことと、乱用のできる限り早い段階で相談できる窓口を充実させ、それを発見し対応できる体制を作ることです。

8.    乱用者にとっての薬物への依存度と対処法

7 薬物依存の進行にあわせた対処法

依 存 度

対 処 法

なにかおもしろいことはないか

薬物との接触・乱用開始

趣味より薬物

学校より薬物

友人より薬物

家族より薬物

食事より薬物

命より薬物

薬物供給の根絶

家庭や学校での予防教育

早期発見

家庭や学校での指導

家庭や学校での処遇改善

少年保護専門機関への相談

薬物専門医療機関への相談

少年保護専門機関による治療

薬物専門医療機関による治療

自助グループ等への参加

薬物専門医療機関への入院

自助グループ等への入所

精神医療へ

この対処法は、私の経験から、薬物依存の進行とそれに対応した対処の例をあげてみました。これは、あくまで一つの目安であり、絶対的なものではありません。

私の経験からいって、できる限り乱用早期に発見し、できる限り多くの人が関わっていけばいくほど回復が早いように思えます。

9. 青少年に教えなければならない七つのポイント

今回の第五次薬物汚染期(第三次覚せい剤乱用期)を収束させるために、最も重要なことは、予防教育です。教育というと、すぐ学校が思い浮かびますが、学校はもちろんのこと家庭、地域など青少年に関わるすべての社会できちんとした予防教育を展開することが、現在求められています。小学校の低学年頃から、きちんとした薬物に関する予防教育を与え、自らあらゆる薬物の誘いに対して「NO」といえる勇気を育てることは、私たち大人の責務です。

この予防教育を展開していく場合に重要なポイントは、薬物を、シンナーや覚せい剤などに特定せず、それらの薬物乱用へのゲートウェイ(入り口)となっているアルコールやタバコの乱用防止から入ることです。私の経験や様々な統計資料から見ても、「あぶり」で覚せい剤を乱用した青少年の9割以上がタバコの経験者でした。

また、実際の予防教育においては、ただ単に「薬物は怖い。人間を止めることになる。」というような脅しではなく、一つ一つの薬物について、その性質、乱用した場合の精神や身体への影響などを、正確に教えていく必要があります。ところが、現実には、現在の日本に、きちんと薬物の予防教育を展開できる人間は、数えることができるほどしかいません。まずは、予防教育をきちんとできる人間を、全国的に多数養成していくことも求められています。

以下に、薬物予防教育の七つのポイントを書いておきます。また、学校での予防教育の展開例を、私の経験から書いておきます。

8 薬物予防教育の七つのポイント

1.アルコール・タバコは、嗜癖性・依存性の強い薬物である。

2.アルコール・タバコは、他の薬物への「ゲートウェイドラッグ(入り口の薬)」となる。

3.アルコールを飲めるか、飲めないかは体質である。

4.青少年期からの薬物乱用は、薬物依存症の危険性を確実に増加させる。

5.ストレスやつらさ、悲しみ、寂しさなどは、アルコールや薬物を乱用しなくても乗り切れる。

6.若者一人一人が、そのままでかけがえのない価値のある存在である。

7.薬物の乱用は、犯罪であると同時に病気である。    (アルコール問題全国市民協会の資料より改編)

9 学齢に応じたドラッグ予防教育の展開例

学齢

予防教育の内容例

関係機関

小学校低学年

  テーマ 「ドラッグと戦う人たち」

      ・麻薬取締犬と触れ合おう

      ・税関で体験学習

大蔵省税関

小学校高学年

  テーマ 「ドラッグの恐ろしさ」

      ・薬物対策車を招いて

      ・薬物乱用防止ビデオ鑑賞

      ・感想文、ポスターなどの制作

厚生省麻薬取締官事務所

各都道府県警察

各都道府県薬務課

中学校

  テーマ 「ドラッグの素顔」

   --ドラッグ乱用防止週間の設置

      ・ドラッグ乱用予防講演

      ・各教科でドラッグ関連授業の

       展開

      ・地域に乱用防止ポスター掲示

各都道府県薬務課

各都道府県警察

厚生省麻薬取締官事務所

ダルク

高等学校

  テーマ 「ドラッグが導く人生」

   --ドラッグ乱用防止週間の設置

      ・ドラッグ乱用予防講演

      ・各教科でドラッグ関連授業の

       展開

      ・地域に乱用防止ポスター掲示

      ・街頭で乱用防止キャンペーン

ダルク

各都道府県薬務課

各都道府県警察

厚生省麻薬取締官事務所

10. 薬物に関する関係諸機関

現在の日本には、残念ながら青少年の薬物乱用や薬物依存に関して、きちんと相談にのり対処できる機関は、ほとんどありません。本来、この問題に関して、中枢をしめるべき各都道府県の精神保健福祉センターも、ごく一部の都県のセンターが多少対応できる程度で、ほとんど役に立ちません。また、保健所に関してはもっと悲惨な状況で、この問題に対する専門家をきちんとおいている保健所は、私が知る限りありません。私が所属する教育の現場でも、残念ながら私の知る限り皆無です。

医療機関についても同様のことがいえます。薬物に対しては、精神科や神経科が対応しますが、緊急時の解毒については、現在多くの病院が面倒を見てくれるようになりましたが、精神的ケアや断薬への動機付けプログラム・社会復帰プログラム、家族会や家族教室を持つ病院は、全国に数えるほどしかありません。

更生施設についても、公的なものは、日本にはありません。薬物依存専門の自助グループでは、DARC(ダルク)APARI(アパリ)が活動しているだけです。

以下に紹介する諸機関は、あくまで私が実際のケースで活用したことのあるもののみを書きました。また、各機関の詳しい活動内容やその機能・評価等については、ケースや担当者によって異なるため、先入観をもたれてはいけないので明記しませんでした。いずれにしても、下記の機関で救われた多くの青少年が存在することは事実です。下記の機関に連絡・相談をしたい場合は、私のほうからご紹介いたしますので、まず私にご一報ください。

10 関係諸機関

機関の種類

機  関  名

内   容

警察機関

各都道府県ユーステレホンコーナー

電話相談・面接相談

医療機関

神奈川県立精神医療センターせりがや病院

赤城高原ホスピタル

埼玉県精神保健福祉センター

会津若松羽金病院

小樽石橋病院

国立下総療養所

国立肥前療養所

茨城県立友部病院

解毒

通院治療

入院治療

更生プログラム

更生施設

ダルク(全国47カ所で活動中)

APARI(群馬県藤岡市他)

その他

電話相談

通所プログラム

入所プログラム

---------- 参考文献 ----------

・「ドラッグ世代 第五次薬物汚染期の若者たちー」 水谷 修著 太陽企画出版

・「中高生の薬物汚染 知るべきこととできることー」 水谷 修共著 農文協

・「さらば、哀しみのドラッグ」 水谷 修著 高文研

・「さよならが、いえなくて---助けて、哀しみから---」 水谷 修著 日本評論社

・「薬物乱用---今、何を、どう伝えるか」 水谷 修著 大修館書店

・「薬物乱用防止教育---その実際と、あるべき姿」 水谷 修編著 東山書房

・「さらば、哀しみの青春」 水谷 修著 高文研

・「ドラッグなんていらない」 水谷 修著 東山書房 2004220日出版

・「夜回り先生」 水谷 修著 サンクチュアリ出版 2004210日出版

・「夜回り先生と夜眠れない子どもたち---夜回り先生2」 サンクチュアリ出版 20041010日出版

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