公式HP ブログトップ プロフィール 講演会申込み 著作 お問い合わせ

夜回り先生は、今!(水谷修ブログ)日記 > 私の書いた「約束」は残酷な本か

私の書いた「約束」は残酷な本か

2015年9月 5日

私の元に、私の新刊「約束」が、あまりにも残酷な本だというメールが届きます。私は、このメールをしてきた人たちの気持ちが痛いほどわかります。なぜなら、私自身、あまりにも残酷な本だと感じ続けてきたからです。私は、本というものは、誰かを幸せにしたり、こころを暖かくしたり、その人の人生に何らかの糧を与えることの出来るものでなくてはならない。そう考えてきました。そして、今まで、本を書き続けてきました。
しかし、この本は、読んだ人に、大きな哀しみしか残しません。だから、十三年間、亜衣と約束したけれども、書くことが出来ませんでした。また、書いているときも、出版するまでも、出版してからも、この本を出したことが良かったのか、いつも自問自答していました。でも、今は、違います。

まずは、この本の出版の経緯を、この本の前書きをここに載せ、お話しします。

-----「約束」 はじめに全文 -----

亜衣。
君が亡くなって、13年の月日が流れようとしています。

 覚えていますか。
 君は病床で、私に2つのお願いをしました。
 1つは、君のことを、私のすべての講演会で、君の後輩たち、子どもたちに話すこと。

この約束は、ずっと守り続けてきました。
 正直にいいます。
じつは、話したくなかった。つらかった。
でも、君の命をかけたお願い......。きちんと話し続けてきました。
 君の後輩たちだけでなく、大人たちも、君のことを思ってたくさんの涙を流してくれました。

 もう1つは、君のことを本にして遺すこと。

 ごめんね、これはできなかった。
 ご両親と約束したから、
君のことを文字にして遺さないことを。
君との約束、そして、ご両親との約束の板挟み。
 君との約束を果たせない自分に、ずっとジレンマを覚えていました。

 でも、約束はどんなに時間がかかったとしても、守らなくてはなりません。
それが約束です。

そして今、君のことを書き遺すという約束を守る時がきました。ご両親との新たな約束によって。
でもね、亜衣。
つらくて哀しくて、何度も書こうとしたけれど、書けなかった。
だから、2年もかかってしまったよ。
 
 君とともに生きたあの日々を、そっと想い出しながら......。
君の想いを一つひとつ文字に記し、ようやく書き上げることができました。

 亜衣、いずれ君の元にこの本を届けます。
 その時、君は「先生、違うよ。こんなふうじゃなかったよ。それは誤解」
そういって、いつものようにほっぺをふくらませるかもしれません。

 もしも、そうだとしたらごめんね。
でも、私は、君との日々を精一杯正直に書きました。

 亜衣、君との約束、すべて果たしました。

---------------------------------------------------------------------------------

ここに書いたとおり、私は、この本を書くことは、先日まで考えていませんでした。しかし、十年前の亜衣の命日の日、10月15日に亜衣のお父さんに呼ばれました。そして、亜衣のお父さんが、重度の肺がんであること、亜衣の元にこの本を持って行きたいことを、伝えられました。そして、この本を書き始めました。しかし、二年間、二千枚近い原稿を書き、そしてすべて捨てました。
私は、今年の正月、亜衣の家に出向き、お父さんに書けないことを話しました。お父さんからは、もうからだがもたない、なんとしても亜衣の元に、償いとして本を持って行ってあげたいと、お願いされました。そして、書いたのが、この「約束」です。
私は、6月、この本の見本本ができあがってすぐに、病院に入院していたお父さんに、届けました。お父さんは、涙を流しながら、本を握りしめ、「これで、亜衣に会うこくが出来ます」と喜んでおられました。そして、その二日後に、亜衣の元に旅立ちました。お父さんの最後には、私も立ち会いましたが、安らかな旅立ちでした。このとき、初めて、この本を出したことを、私は良かったと感じました。

また、8月、横浜で開かれた、日本Aエイズフォーラムで、私の尊敬するエイズの研究と治療で有名な医師が、私に「この本を出版してくれて、ありがとう」ということばをくれました。彼は、こうことばを続けました。「水谷先生、亜衣ちゃん、残念だったね。今なら、助けることが出来た。私たちの治療法の研究が間に合わなかった。今、エイズについて、何か語ることがタブー視されている。学校教育でも、マスコミ界でも、意図的に避けようしている。そんなときに、この本を書いてくれたことは、再度、エイズに対して、多くの人たちにきちんとした関心や知識を持ってもらうためにも、とてもありがたい」

私は、今、この本を出版して良かったと考えています。確かに、この本は残酷な本です。でも、事実です。たとえば、人間にとって、最も残酷な事実は、いずれ死ぬということです。でも残酷だからといって、死について考えることや語ることを止めてしまうことは、正しいのでしょうか。私はそうは思いません。

いずれ、私も、胸を張ってこの本を、亜衣の元に再度届けようと思います。「亜衣、ありがとう。君の人生が、多くの人に、特に多くの子どもたちの生き方に、すてきな影響を与えたよ」と、伝えたいと思います。

お問い合わせ